東京地方裁判所 昭和38年(ワ)1990号 判決 1965年1月30日
原告 近藤昇吉
右訴訟代理人弁護士 永井由松
被告 橋本善次
被告 有限会社 橋本工務店
右代表者代表取締役 橋本善次
右両名訴訟代理人弁護士 小川大作
被告 東和商事有限会社
右代表者代表取締役 大橋徳治
右訴訟代理人弁護士 佐藤茂
主文
一、被告橋本善次は原告に対し、別紙物件目録記載(一)、(二)の土地につき東京法務局葛飾出張所昭和三六年二月三日受付第一七一一号、および同目録記載(三)の建物につき同出張所同年六月九日受付第一一五九二号の各所有権移転仮登記にもとずく所有権移転の本登記手続をなし、かつ前記建物のうち同目録記載(四)の部分の明渡をせよ。
二、被告有限会社橋本工務店は原告に対し、原告が第一項所掲の建物につき同項記載の本登記を経由したときは、同建物のうち別紙物件目録記載(四)の部分の明渡をせよ。
三、被告東和商事有限会社は原告に対し、第一項所掲の建物につき同項記載の本登記をなすことを承諾せよ。
四、原告のその余の請求を棄却する。
五、訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
第一、当事者の申立
一、原告
(一) 被告橋本善次は原告に対し、別紙物件目録記載(一)、(二)の土地につき東京法務局葛飾出張所昭和三六年二月三日受付第一七一一号、および同目録記載(三)の建物につき同出張所同年六月九日受付第一一五九二号の各所有権移転登記にもとずく本登記手続をせよ。
(二) 被告橋本善次同有限会社橋本工務店は原告に対し、別紙物件目録記載(三)の建物のうち同目録記載(四)の部分を明け渡し、かつ連帯の上、昭和三七年六月一四日から明渡がすむまで一ヵ月金四万六、〇〇〇円の割合による金員の支払をせよ。
(三) 被告東和商事有限会社は原告に対し、別紙物件目録記載(三)の建物につき第一項の本登記手続を承諾せよ。
(四) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(五) 第二項につき仮執行の宣言を求める。
二、被告ら
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求の原因
(一) 被告橋本善次は昭和三六年二月二日および同年六月八日の二回にわたり、原告を連帯保証人として、訴外江戸川信用金庫(以下訴外金庫という。)との間に、極度額を各々金一〇〇万円合計金二〇〇万円とする手形取引根抵当権設定契約を結ぶとともに、抵当債務不履行の場合は訴外金庫において代物弁済により別紙物件目録記載(一)、(二)の土地(以下本件土地という。)および同目録記載(三)の建物(以下本件建物という。)の所有権を取得できる旨の代物弁済の予約をなし、なお被告橋本が訴外金庫に対する債務の一部を遅滞したときは、その全債務につき期限の利益を失ない、訴外金庫は直ちに抵当権を実行し、または代物弁済を完結することができる旨を特約し、本件土地につき、東京法務局葛飾出張所昭和三六年二月三日受付第一七一〇号をもって根抵当権設定登記、同出張所同日受付第一七一一号をもって所有権移転の仮登記を各経由し、本件建物につき、同出張所昭和三六年六月九日受付第一一五九一号をもって根抵当権設定登記、同出張所同日受付第一一五九二号をもって所有権移転の仮登記を各経由した。
(二) 被告橋本は前記与信契約にもとずき昭和三七年三月一五日金三〇万円を返済期日を同年六月一三日と定めて借り受けたが、その際訴外金庫宛に振出した約束手形が前記返済期日に不渡となり、取引停止処分を受けた。
(三) かくて、原告は連帯保証人として、訴外金庫から被告橋本の債務の履行を催告されたので、昭和三七年一〇月二七日同被告に宛てて催告のあった旨を通知し、同月二九日訴外金庫に対し、同被告の確定債務金一四一万三、〇六七円を代位弁済して前記根抵当権および代物弁済予約完結権の移転を受け、同年一一月五日前記各仮登記につきそれぞれ譲渡による移転の付記登記を経由した。
(四) 原告は被告橋本に対し、昭和三七年一一月一六日付同月二〇日到着の書面で代物弁済完結の意思表示をし、本件土地の所有権を取得した。
よって被告橋本に対し本件土地、建物につき前記各仮登記にもとずく所有権移転の本登記手続を求める。
(五) つぎに被告橋本は被告有限会社橋本工務店とともに、本件建物のうち別紙物件目録記載(四)の部分を使用しているので、以上の被告両名に対し、無権限の不法占有者として右の部分の明渡を求め、かつ連帯の上、昭和三七年六月一四日から明渡がすむまで一ヵ月金四万六、〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求める。
(六) さらに本件建物について、被告東和商事有限会社のために、東京法務局葛飾出張所昭和三七年七月一二日受付第一三四一七号をもって賃借権設定登記がなされている。しかしこの登記は第一項所掲の所有権移転の仮登記におくれてなされたものである。よって右仮登記の本登記をするにつき、登記上の利害関係を有する第三者としての同被告に対し、その承諾を求める。
二、答弁および抗弁
(一) 橋本善次同有限会社橋本工務店
1、請求の原因第一項のうち、被告橋本善次が原告主張の日に、原告を連帯保証人として、訴外金庫との間に、極度額合計金二〇〇万円の手形取引根抵当権設定契約を締結したこと、および本件土地、建物につき原告主張の根抵当権設定登記が経由されていることは認めるが、被告橋本が訴外金庫との間に原告主張のような代物弁済の予約をしたとの点は否認する。
2、同第二項のうち、被告橋本が、原告主張の日に約束手形を不渡りし取引停止処分を受けたことは認める。
3、同第三項のうち、昭和三七年一〇月二七日被告が原告主張のような通知を受けたこと、および原告が訴外金庫に対して代位弁済したことは認めるが、被告の訴外金庫に対する債務の金額の点は争う。また原告が連帯保証人として訴外金庫から催告を受けたことは知らない。被告の訴外金庫に対する債務額は金一二〇余万円にすぎない。
4、同第四項のうち、被告が原告から昭和三七年一一月一六日付の原告主張内容の書面を受けとったことは認めるが、同書面が被告に到達したのは翌一七日である。
5、同第五項のうち、被告橋本同有限会社橋本工務店が本件建物のうち原告主張の部分を共同で占有していることは認める。被告橋本工務店は被告橋本から適法に賃借の上、占有しているものである。
6、仮に訴外金庫と橋本との間に、本件土地、建物について代物弁済の予約が存在したとしても、前記手形取引根抵当権設定契約については、昭和四一年一二月三一日までの存続期間が定められてあって、この期間は未だ満了していないから、代物弁済によって本件土地、建物の所有権を取得するには、その前提として、基本となっている手形取引契約が解約されなければならないのに未だ解約の意思表示がなされていない。したがって原告のした代物弁済完結の意思表示は無効である。
7、仮に代物弁済予約の完結権の行使が前記与信契約の解約を前提とするものでないとしても、原告の代位弁済によって当然に右の予約完結権が原告に移転するものではない。
仮に予約完結権が原告に移譲されたとしても、この予約完結権の譲渡については、あらかじめ譲渡人である訴外金庫から債務者である被告橋本に対して、譲渡の通知がなされなければ、原告は予約完結権の取得を被告橋本に対抗できない筋合である。ところで原告から被告橋本に対して予約完結の意思表示が到達したのは昭和三七年一一月一七日であるのに、訴外金庫が予約完結権譲渡の通知をしたのは同月二七日である。したがって原告のした代物弁済予約完結の意思表示はその効力を生じない。
8、また根抵当権の設定とともに代物弁済の予約がなされた場合に、予約完結権を行使できるのは、当時の具体的債権額が、抵当権極度額またはそれに近接する金額に達した場合でなければならない。しかるに前記のように手形取引根抵当権設定契約における債権極度額が金二〇〇万円であるのに対し、原告が予約完結の意思表示をした当時その債権額は金一二〇余万円にすぎない。したがってその意思表示は無効である。
9、さらに原告が代物弁済完結の意思表示をした当時、本件建物はおよそ金四〇〇万円、本件土地は約金二六一万円(坪当り約四万五、〇〇〇円)の価格を有していたのに対し、被告橋本が負担していた債務額は金一二〇余万円であるから、原告は約五倍半の価格の本件土地建物を代物弁済によって取得したことになる。他方根抵当権設定契約、代物弁済の予約の基本となった手形取引契約には期間の定めがあること、訴外金庫は以上の取引関係につき専門的知識経験を備えた金融機関であるのに対し、債務者である被告橋本は経験知識に乏しい一職人であること、被告橋本は当時資金面で窮迫していたこと、訴外金庫は代物弁済についての格別の説明もなさず同契約を締結させたこと等にかんがみ、原告は、代物弁済の完結により被告橋本の急迫、困窮無思慮に乗じ同人の犠牲において、不当に高額の利得を収めたものといわなければならない。したがって原告の代物弁済完結権の行使は公序良俗に反し権利の濫用に該当するから無効である。
(二) 被告東和商事有限会社
1、請求の原因第一項ないし第五項の事実はいずれも知らない。
2、同第六項のうち、原告主張の登記が存することは認める。
3、仮に訴外金庫と被告橋本との間に、原告主張のような手形取引根抵当権設定契約および代物弁済の予約が締結され、本件土地、建物につき所有権移転の仮登記が経由されその後原告が代位弁済により根抵当権および代物弁済予約の完結権を取得し、さらに昭和三七年一一月二〇日被告橋本に対する予約完結の意思表示により本件土地、建物の所有権を取得したとしても、右の意思表示が同被告に到達したのは昭和三七年一一月二〇日であるから、将来なされる本登記の対抗力は右の期日までさかのぼるにすぎず仮登記のときまでさかのぼるのではない。したがって右の期日以前に賃借権設定登記を経由している被告東和商事は、原告の前記仮登記にもとずく本登記を承諾する義務を負う利害関係者には該当しない。
4、本件土地、建物の登記簿によると、根抵当権設定契約および停止条件付代物弁済契約によって担保される債権の極度額は、本件土地については金一〇〇万円、本件建物についても金一〇〇万円と約束されており、所有権移転の仮登記についてみると、「停止条件付代物弁済契約(根抵当権設定契約による債務金一〇〇万円を弁済しないときは所有権を移転する)」が登記原因として登載されている。そうだとすると、被告橋本が債権極度額合計金二〇〇万円に相当する債務を現実に負担し、その債務の不履行があった場合にはじめて条件が成就し代物弁済が成立するものといわなければならない。ところが原告が主張する被告橋本の債務額は金一四一万三、〇六七円にすぎないから代物弁済は成立しない。
5、原告が、被告の負担する債務金一四一万三、〇六七円の代物弁済として、昭和三七年一一月二〇日その所有権を取得したと主張する本件土地、建物は、当時右債務額を遙かに上廻る価格を有していたのであるから、右の代物弁済は公序良俗に反する無効のものといわなければならない。
第三、証拠≪省略≫
理由
一、原告と被告橋本善次同有限会社橋本工務店との間において附随契約証を除くその余の部分の成立については争がなく附随契約証については≪証拠省略≫により真正に成立したものと認められ、原告と被告東和商事有限会社との間において官署作成部分については争がなくその余の部分については前記証拠により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫、原告と被告橋本同橋本工務店との間において成立に争がなく、原告と被告東和商事との間において前記証拠により真正に成立したものと認められる≪証拠省略≫を綜合すると、請求の原因第一項の事実が肯認でき(被告橋本が昭和三六年二月二日および同年六月八日の二回にわたり、原告を連帯保証人として、訴外金庫との間に、債権極度額合計二〇〇万円の手形取引根抵当権設定契約を結び、本件土地建物につき根抵当権設定登記を経由したことは原告と被告橋本同橋本工務店との間に争がない。)、被告本人尋問の結果のうち、この認定に牴触する部分は、前掲の各証拠を比較検討するとたやすく信を措きがたく、他に右の認定を覆えすに足りる証拠は存在しない。
二、≪証拠省略≫と弁論の全趣旨を綜合すると、請求の原因第二項の事実が肯認できる。
三、してみると、請求の原因第一項所掲の特約により、被告橋本は昭和三七年六月一三日現在、訴外金庫との間の与信契約にもとずき借り受けた全債務について期限の利益を失ない、他方訴外金庫は直ちに根抵当権を実行し、または代物弁済予約の完結権を行使することができる筋合である。
被告橋本らは、前記担保権設定契約の基礎となる与信契約は、存続期間が昭和四一年一二月三一日までと約定せられているところ、未だ該期間は満了しておらず、また解約もされていないから、被担保債権額は確定しておらず、したがって担保権を実行するに由なき旨主張し、≪証拠省略≫によると、与信契約の存続期間が昭和四一年一二月末迄と約定せられたことが認められるけれども、被告らの前記主張は特約その他特段の事情の認められない与信契約に関する立証としては正しいであろうが、本件にあっては前掲のような特約が存するのであるから、訴外金庫はあえて与信契約を解約するまでもなく、担保権を実行するに支障はないものといわなければならない。
四、≪証拠省略≫を綜合すると、請求の原因第三項の事実が肯認できる。
被告橋本らは、原告の代位弁済によって代物弁済の予約完結権が当然に原告に移転するものでないし、仮に移転したとしてもその旨を予め被告に通知することなくして予約完結の意思表示をしたのであるから、この意思表示は無効である旨主張するけれども、前認定のように原告は保証人として弁済したのであるからその債務の担保である代物弁済予約完結権は法律上当然に原告に移転したものというべく、意思表示による譲渡ではないから、対抗要件としての債務者に対する通知も問題とはならない。
五、原告が被告橋本に対し、昭和三七年一一月一六日付同月二〇日到達の書面をもって代物弁済の予約完結の意思表示をしたことは≪証拠省略≫により認められる(なお原告が被告橋本に対し昭和三七年一一月一六日付書面により代物弁済完結の意思表示をしたことは、原告と被告橋本同橋本工務店との間に争はない)。したがって被告橋本同橋本工務店は原告に対し、本件土地、建物につき、仮登記にもとずく所有権移転の本登記手続をする義務を負うものといわなければならない。
六、ところで、被告橋本同橋本工務店は、被担保債権の極度額を金二〇〇万円とする代物弁済の予約が締結された場合において、債権者が代物弁済の予約を完結できるのは、具体的債権額が右の極度額またはそれに近接する金額に達した場合でなければならない旨主張し、また被告東和商事は前記代物弁済の予約が成立した場合は、債務者が現実に債権極度額金二〇〇万円に相当する債務を負担し、その履行を遅滞してはじめて代物弁済が有効に成立しうるものである旨主張するので、この点につき検討を加える。
前認定のように本件代物弁済の予約は、その債権額を当初から確定したものではなく、与信契約にもとずき将来確定すべき債権額について代物弁済の予約をしたものであり、この後日確定すべき債権額が約定の極度額と異なることは当然ありうることであり、特に本件にあっては債務者において与信契約にもとずく債務のうちその一つでも履行を遅滞した場合には全債務につき期限の利益を失ない、債権者は即時担保権を実行できる旨の特約がなされているのである。したがって本件代物弁済の予約につき被告らの主張が妥当するためには、特にその債権額を約定の債権極度額またはこれと同程度の金額とする旨の特約が存在しなければならない。しかしながら本件においてさような合意があったことを認めるに足りる証拠は存在しないのであるから、右の主張はいずれも採用の限りでない。
七、つぎに、原告の代物弁済完結の意思表示がいわゆる暴利行為に該当し無効である旨の被告らの主張について検討を加える。
第四項に掲げた各証拠を綜合すると、原告が代物弁済の予約完結権を行使した昭和三七年一一月二〇日当時、被告の債務額は金一四一万三、〇六七円であったことが認められ、他方鑑定の結果によれば、代物弁済の目的物である本件土地、建物は当時金五百五十数万円の価格を有していたものと認められるから、原告は代物弁済により過当な利益をえたものということができよう。しかし右の程度の価額の不均衡が存するからといってただちに公序良俗違反の暴利行為と断ずるわけにはいかないのであって、さらに原告が、巨利を博すべく被告の窮迫、軽卒、無経験等に乗じて代物弁済を完結したかどうかの主観的条件の有無について、検討を要するものと考える。ところが本件において原告がさような意図を有していたことを認めるに足りる証拠は存在しない。そうだとすると被告らの暴利行為の主張はしょせん理由がないものといわなければならない。
八、被告東和商事は、本件代物弁済の予約にもとずいて、本件土地、建物につき、原告のため所有権移転の仮登記(本来は不動産登記法第二条第二号による仮登記をなすべきものであった)につき譲渡の附記登記がなされているが、原告が代物弁済により所有権を取得したのは昭和三七年一一月二〇日であるから、将来なされる本登記の対抗力は右の期日までさかのぼるにすぎず仮登記のときまでさかのぼるものではない。したがって前記所有権取得に先立ち賃借権設定登記を経由している被告東和商事は、前記仮登記にもとずく本登記を承諾すべき義務を負うものではない、旨主張するので判断をすすめると、本件代物弁済の予約にもとずいて仮登記を経由する場合は、不動産登記法第二条第二号により所有権移転請求権保全の仮登記手続をすべきであり、本件のように同法第二条第一号によるべきではなかったのであるが、以上いずれの登記も、結局後日なされる本登記の順位を保全するためになされるものであるから、登記面と実体面との間に第一号と第二号とのちがいがあっても、一旦経由した以上は仮登記として順位保全の効力を保有するものと解するのが相当である。
ところで本件代物弁済の予約にもとずき仮登記を経由した場合に、原告が所有権を取得するのは予約完結の意思表示をしたときであって、仮登記のときまでさかのぼるのでないことはいうまでもないが、仮登記は本登記の順位を保全する効力を有するのであるから、仮登記権利者である原告が一旦所有権を取得した以上、これに先立ち被告東和商事が賃借権を取得しても、原告は該権利を否認することができる筋合である。したがって同被告は登記上利害関係を有する第三者として本件仮登記の本登記につき承諾の意思表示をする義務を負うものといわなければならない。
九、被告橋本同橋本工務店が本件建物のうち別紙物件目録記載(四)の部分を共同で占有していることは原告と同被告らとの間に争がなく、≪証拠省略≫を総合すると、被告橋本工務店は被告橋本の許諾をえた上昭和三七年九月一〇日以降前記建物部分を使用していることが認められる。ところで本件建物については、前記仮登記が存するにとどまり、未だ本登記が経由されていないことは当事者間に争がない。そうだとすると原告は被告橋本工務店に対し、本件建物の所有権の取得を対抗しえない筋合である。したがって原告の同被告に対する本件建物中前記部分の即時明渡の請求は理由がないものといわなければならないのであるが、原告は本件において、被告橋本に対し仮登記の本登記手続を請求しており、その他弁論の全趣旨に照らすと、原告は本登記を経由したことを条件として将来の明渡をも求める意思を有することが認められるところ、この請求は理由があるものといわなければならない。
一〇、さらに原告は、被告橋本同東和商事に対し、連帯の上、昭和三七年六月一四日から前記建物部分の明渡がすむまで一ヵ月金四万六、〇〇〇円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求めるが、この建物の一部の賃料が一ヵ月金四万六、〇〇〇円を相当と認めるに足りる証拠は存在しない。
一一、以上のようなわけで、原告の本訴請求のうち、被告橋本に対し本件土地、建物につき仮登記の本登記手続を求める部分、同被告に対し本件建物のうち前記(四)の部分の明渡を求める部分、被告橋本工務店に対し本件建物につき本登記を経由したことを条件として右(四)の部分の明渡を求める部分および被告東和商事に対し本件建物につき前記本登記手続の承諾を求める部分はすべて正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。
よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第九三条を適用し、なお仮執行の宣言については不相当としてその申立を却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 石崎政男)